島の豊かな食生活 ―豊かさとは何か―

2011年の夏、建設会社の社員としてサウジアラビアの砂漠に駐在をしていた。豊かな日本での生活に慣れた体に日中50度を超える砂漠の生活は厳しい。そんな中で同僚達と盛り上がった鉄板ネタは「日本に帰ったら何が食べたい?」だった。高級寿司だったり、牛鍋だったり、スッポンだったり、鰻重だったり、今思えばあの時私たちが豊かさの象徴として思い浮かべるものはすべてお金を出して手に入れるものだった。

それから10年と少し、私が今暮らすこの島には残念ながら高級寿司も牛鍋も、鰻重もない。ウナギが食べたければ釣るしかないし、スッポンが食べたければ捕まえて自分でさばくしかない(さすがに野生の牛はいない)。ちなみに天然スッポン鍋は東京の料亭で食べたやつの100倍くらい美味しかった(さばき方はそれほど特殊ではなく、甲羅の外し方以外はほぼ哺乳類と一緒だった)。

山に入ると四季折々の食材の宝庫だ。春はフキノトウ、タラの芽をはじめとする山菜、タケノコは大量にとって保存食にするのも良い。キクラゲはほぼ一年中とり放題。ビワやアケビも野生のものが沢山なっている。海岸にもオカヒジキ、ツルナやハマダイコンも群生している。

自分で育てる野菜はスーパーに並んでいる綺麗で大きくて安い資本主義の優等生達とは違い、小さかったり曲がっていたりするが滋味豊かで本当においしい。自分の家の畑で有機栽培したおいしい野菜を、毎日完熟とれたてで自分で調理して食べる。最高に健康的でハッピーな生活だがGDPには計上されないので日本経済的にはマイナスだろう。

豊かさの定義は人それぞれだし、資本主義経済の物差しで測るとこの島での生活は決して豊かではないかもしれない。しかし、大事な人との時間を大切にして、おいしい食材で3食を丁寧に作り美味しく頂く。これ以上の豊かさってそうそうないなって思う。


Kura-Kura農園
Instagram @kurakurafarm

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